「塾の先生」

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佐久ちゃん  ●会社員 (39)

私が大学2年のころである。
バイトで塾の講師をしていたことがある。
当時は結構塾の講師と言うのは学生としては悪くないバイトだった。

生徒は小学校高学年十数名、週2日だったと記憶している。
教室はお寺の集会所を借りてやっていた。

講師初日、バス停から歩いて教室に向かう私を生徒達は途中の木の上やあるいは物陰から出迎えてくれた。

勉強をしに来てる子が殆どだったが、中には遊び半分の子もいた。
私が黒板に向かうと悪さをする子もいた。
そんな時は、その生徒にフェイントをかけて現場を押え、その子を勉強中ずっと立たせてお仕置きもした。

評判(?)を聞いて途中から入塾して来た子もいた(確か4年生の名前は美加ちゃんと記憶している)。

私が講師を始めた動機がバイトと言うこともあって一年でやめてしまった。
自分の中ではその程度にしか考えていなかった。

生徒達とお別れの日、勉強が終わって皆をレストランに連れて行き、ケーキをご馳走した。
何だか皆いつもの元気はどこへ行ったのか、随分遠慮していたのを覚えている。

最後だからと、皆でバス停まで見送ると言う。
私がバスに乗り込もうとする時になって、女の子は泣き出すし、男の子は「先生、また来てね。」と騒ぎ出した。
出来ない約束と知りながら、私は、「また来るから、元気にしてろよ。」
そう言ってバスに乗り込んだ。

走り去ろうとするバスのあとを皆で追いかけてきた。
そんな中で、私に一番手を焼かせた子が最後までバスを追い続けて、かけてきた。
私は熱い思いを感じながら、その子に向かって手を振り続けたのだった。