市原恵理『黒い部屋の夫』感想ネタバレ見どころ紹介

人気ブログから単行本で出版され、当時大変話題になった作品をご紹介します(｡-_-)ﾉ☆。

市原恵理：黒い部屋の夫

この本はどんな本？

　2007年3月からスタートした『記憶の記録』というブログがありました。

うつ病の夫との7年間の暮らし、離婚後の夫の自殺という悲惨な体験をつづった衝撃的なブログです。

　作者さんは、少し時間をおいてから客観的に自分の記憶を整理してブログにされたようなので、小説風に非常に読みやすくできています。

ただ、内容はとても深刻で悲惨なものです。

　その有名な『記憶の記録』がこの『黒い部屋の夫』として単行本となりました。

2009年にインフォレストから上・下2冊で出版されました。表紙の金魚の絵が美しい装丁です。

現在インフォレスト社がなくなったため新品の入手は困難ですが、中古品はあるようです。

黒い部屋の夫：あらすじ

この本のあらすじは？

　エリの夫クマは10歳年上です。

エリが妊娠した直後からクマはうつ病になります。

エリは出産や自分の病気、家事育児と仕事に奮闘し、夫を支えますが力尽きて離婚します。エリは新しい仕事と新しいパートナーを得、再生しつつありましたが、その矢先、クマが自殺してしまいます。

　そもそも夫だったクマとはどんな人物だったのでしょうか。

　クマはエリの前にも結婚していたことがあります。

裕福な家庭の長男で愛情いっぱいに育ちました。

優しくおっとりした性格ですが、ちょっと依存的で自己中心的なところがあります。この両親はエリのこともとても可愛がってくれます。

　エリは厳しい母のもとで育ちました。

実家を離れて一人暮らしをするエリは付き合う相手とはずっと一緒にいたいと思い半同棲状態になります。

クマの前にも何人か付き合っていた男性がいました。結婚話はクマがはじめてです。いろいろありましたが、クマ32歳、エリ22歳で二人は結婚します。

　クマは結婚当初は猛烈に働きます。家に仕事をお持ち帰り、睡眠を削って働きます。しかしその仕事が終了すると燃え尽きたかのように倒れてしまいます。

身体の不調を訴えるクマは点滴をしながら出勤します。が、次第に出社拒否がはじまります。まるで子どものようです。心療内科を受診し「うつ病」の診断がくだされました。

　そこからクマは会社に行かずエリと家にいるようになります。エリは出産したばかりで子育てが大変、おまけに胆石をかかえ大変です。何かをクマに頼むとクマはものすごく怒るのです。

頼み事は大したことではない、ごみ出しをして、とかムスメのミルクを作ってとか簡単なことです。クマに物事を頼むと「エリちゃんのためにならない」と怒るのです。

　クマはうつ病ですが活動的です。働かないので収入がないのですが、父親が毎月２５万生活費をくれるのです。そのうちから4万ほどをエリに渡し、あとはすべて自分のお小遣いにしています。一方エリはその4万ほどでやり繰りしなければならずに大変です。

　クマは活動的ですが、やはり病気なのでささいなことでねちねちとエリをいじめます。ムスメのことも興味はないようです。クマは自分は可愛そうで自分はつらい、としか感じていません。でもエリとムスメを手放しません。

　病気のため、風呂もいやがり、不潔このうえないクマは少し広いアパートに引っ越します。ムスメのためかと喜んだのもつかの間、クマは1つの部屋を自分のものにします。クマの黒い部屋、その当時のクマの趣味が置かれていました。それはどんどん増やされていきます。そのものは……？

　クマの病状は改善せずエリのほうもボロボロになってしまいます。7年がんばりましたがエリは離婚を決意します。クマの両親もわかってくれました。これからは両親がクマの面倒をみてくれることになりました。

　7か月後、エリは新しいパートナーとの幸せな生活に踏み出していましたが、そこにクマの訃報が届きました。クマの父が生活態度を注意したとたんに、クマは飛び降り自殺をしたというのです。

黒い部屋の夫：感想

　ものすごいお話なのですが、淡々と書かれているので読むことができたのだと思います。

家の中に病人がいると、家族はものすごく気をつかいます。それが、出口のないうつ病なのでエリの苦労は想像を絶します。そして離婚、クマを見捨てたことになるのでエリの抱える罪悪感はいかほどのものだったでしょう。追い打ちをかけるクマの自殺……。エリは幸せになってはいけないのでしょうか(ﾉω･､。

　BUT でもムスメの母ですから生きていかなければなりません。エリはこのブログを書くことで再生しようとしたのではないでしょうか。そしてこれだけすばらしいお話を書かれたのですからきっと今はムスメさんと幸せになっていると願っています。

　クマのうつ病は今ならもう少し適切な治療方法があったかもしれません。仕事はいやだが趣味は楽しむ、新型うつ病でしょうか。クマも、ものすごくつらかったと思います。

お亡くなりになったのはお気の毒です。でもエリもご両親もせいいっぱいクマのために尽くされたので、後悔することなく自分たちの人生を歩まれることを願うばかりです。

黒い部屋の夫：まとめ

　『黒い部屋の夫』いかがでしたか。

心が弱っているときにはおすすめしません。

落ち着いているときにじっくりお読みください。

ちなみに表紙の金魚は黒い部屋の象徴ですよ。