「勝負の世界」

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かずき ●会社員  

小学5年生のときだった。
父からはじめて将棋を習った。
習ったつもりでいた。
たしかに駒の進め方は父から教わった。
それからが早とちりのわたしの出番だった。
すべて分かったつもりで隣りの中学生の兄貴のところへかけて行った。
無謀にも今習ったばかりで兄貴に勝負を挑んだのだった。
当然結果は言うまでもなかった。
それよりもなによりも、最後は間抜けな形で終わりとなった。
実は分からないまま、あっという間に詰められてしまったのだが。
兄貴が「王手」と言った時だった。
「王手って、何?」私が兄貴に対して発した言葉だったのだ。
「父さんにもう一度よく教えてもらいな。」
兄貴のその言葉に押し返されるように家に帰っていった私だった。
こどものお遊びといえば、それまでだが、将棋だって遊びとは言え、負ければくやしいもの。
くやしいからこそ、真剣になって、今度は父親に勝負を挑んだものだった。
父親にも負けると、またくやしさが増した。
くやしさと勝ったときの喜び。
そのどちらをもぜひ今の子達にも知っておいて欲しいと思う。
負けること、くやしがること、そのどちらもが決して格好わるいことではないことを今の時代だからこそ知っておいて欲しいと思った。