「「ありがとう」と言うことば」

酒井 清重  ●会社員(55) 

ある保険会社での講習会でのことだった。
インストラクターの女性の口から出てくる「ありがとうございます」の言葉に、改めてその言葉の持つ響きに感動すら覚えたことがある。
きれいな「ありがとう」を言える人だなと、そんな思いで聞き入っていた。
いつしか、いつの日か忘れてしまっていたこの言葉の響きに遠く高校時代を思い出していた。

あの頃は毎朝通学途中で出会うお巡りさんに「おはようございます」と挨拶をしたものである。
高校生の自分としては、僕たちのために昼夜関係なく働いてくれるお巡りさんはありがたい存在であった。
その気持ちが自然と言葉として出てきたものである。
お巡りさんもそれに答えてくれた、大きな声で。
それだけのやり取りではあったけれど、だからいつも気持ちのよい朝を感じることができた。
高校前の電停で路面電車を降りる時には、運転手さんに「ありがとうございます」と声をかける。
運転手さんは「行ってらっしゃい」と返してくれる。
それが自然にできていた自分でもあった。

その「おはようございます」「ありがとうございます」の感謝の気持ちが、お巡りさんや運転手さんに限らず「人」を育ててきたんだと、今さらながらそう思う。
そんな普通の言葉が皆を支えていた時代があったのだと。

今それすらなくなってしまっているのかどうか、それは皆さんで考えてもらえばいいことであるとは思う。
私も私自身の問題として忘れかけていたこの言葉のもつ響きをもう一度考え直してみたいと思う。
「ありがとう」、いい響きを持った言葉である。